甘酒はなぜ甘い?発酵のプロが「飲む点滴」甘酒の種類と甘さの秘密を解説

こんにちは!KIKUを運営している山口こうじ店専務の山口和真です。

甘酒と聞くと、お正月に飲むイメージが強い方も多いかもしれません。ですが甘酒は、健康や美容への効果が高いことから、お正月などのイベントだけでなく普段から飲んでいただきたいドリンクとして、今注目を集めています。普段飲まない方は「甘酒ってお酒入っているんじゃないの?」「砂糖がたくさん入っているから体に悪いんじゃないの?」なんて間違った認識をされていることもあるのではないでしょうか。

本記事では、大学院を出て、老舗麹屋の専務として日々麹製品の生産に取り組みながら、麹の研究を重ねている山口和真から皆さまへ「甘酒の種類と甘さの秘密」をお伝えします。

「なぜ甘酒が健康・美容への効果があると言われているのかを知りたい」「甘酒を試してみたいけどどんな種類があるのかわからない」「甘酒がなぜ甘く感じるのかを知りたい」という方に読んでいただきたい記事です。

目次

甘酒の歴史

甘酒は古代から嗜まれていた!なんと「日本書紀」にも記述が。

甘酒といえば初詣の際、神社で販売されているのを思い浮かべる方も多いのではないでしょうか。コロナ禍が始まる数年前より、甘酒は健康飲料として注目を浴び、スーパーでは乳製品コーナー近くに多く並ぶようになりました。では「飲む点滴」と言われるほどの栄養価の高さを誇る甘酒が、実は古代より嗜まれてきたことをご存知でしょうか。

甘酒が初めて歴史書に記載されたのは、奈良時代に書かれた「日本書紀」だと言われています。現在の麹甘酒となる「醴(あまざけ)」や「醴酒(あまざけ)」と記載されており、当時は神事の際に天皇に献上される高級酒だったそうです。6月~9月の間、米と麹と酒を用いて、一夜でできる醴を宮中で楽しんだと言われています。この宮中での風習は室町時代の「公事根源」にも登場し、古代~中期にかけて天皇や貴族などの間で甘酒は楽しまれてきました。

江戸時代からは一般家庭でも飲まれるように。

さらに時代が進み、江戸時代に入ると甘酒が庶民の間でも飲まれるようになりました。1597年、易林本節用集という当時の国語辞書に「甘酒」という言葉がでてきまして、これが日本の歴史上、「醴」ではなく初めて「甘酒」という単語が出てきた文献です。江戸時代に入りますと江戸時代を代表する料理本「料理物語」が登場し、そこでは現代の麹甘酒とは違い、いわゆる「麹水」のような製法が記されており、江戸時代前期は、夏の時期に一般家庭ごとに飲まれていたと言われています。江戸時代中期になると、現代の麹甘酒と同じ製法で作られるようになり(和漢三才図会)、そこに酒を加えたり、果汁を搾ったりとアレンジはあったそうですが、麹甘酒の製法が確立したと考えられます。当時は冬限定で販売されるようになり、ただ飲むだけでなく菓子や調味料に使用されるなど、様々なアレンジが行われていました。松尾芭蕉の俳諧や当時の大衆の様子を記した本では、甘酒は冬に温めて飲む物として庶民の間で定着していたようです。さらに江戸時代後期に入ると、冬だけでなく夏にも販売されるようになり、関東では通年して甘酒商という行商人が道端で販売していたと言われています。

甘酒は古来からの慣習で「寒い時期に神社や寺で飲むもの」というイメージが根付いている

神事としてだけでなく、一般庶民にも楽しまれていた甘酒ですが、明治時代以降は影をひそめるようになります。関東大震災の影響で甘酒商がいなくなり、経済の成長とともに当時の本や歴史書にも甘酒の記載が見当たらなくなってきました。冷蔵庫の発明により、江戸時代では貴重な甘味であった甘酒が洋菓子などに立場をとられてしまい、一般家庭で作られることも少なくなっていったようです。地方では神事として甘酒を神様に献上する風習が残っていましたが、高齢化や人口の減少などにより、そのような風習も継承されなくなったようです。一方で、古来より伝わる慣習から、甘酒は「寒い時期に神社や寺で飲むもの」というイメージが根付いており、今でも初詣などで販売されていると考えられています。

今では機能性・栄養価の高さから国内外で注目されるように

そして、平成後期に「麹ブーム」から甘酒が再び日の目を浴びるようになりました。現在では高い機能性が評価され、国内だけでなく海外でも「Amazake」として販売されるようになり、さらにコロナ禍の影響で長い歴史とともに嗜まれてきた甘酒が世界で注目されるようになったのです。

甘酒の分類

 甘酒は原料と製法から、2種類に分類されます。

麹甘酒(こうじあまざけ)

米と米麹と水で作られた甘酒で、アルコールを生成する酵母を用いず、麹菌のみで発酵するため、ノンアルコールです。もち米を使用して作られることもあり、江戸時代にも楽しまれていた製法の甘酒です。

粕甘酒(かすあまざけ)

酒粕に水を加え、砂糖で味付けした発酵を介さないで作られた甘酒です。神社などでよく販売されている甘酒で、酒粕由来のアルコールを含みます。

製法も原料も違うのに、なぜどちらも「甘酒」?

製法も原料もそれぞれ違うのに、共通して甘酒と表記されるのに違和感を感じるのではないでしょうか。古来、麹甘酒は宮中で飲まれるものでしたが、一般市民が飲んでいたのがこの粕甘酒だったと言われています。作られた酒は当然、献上されるため、酒粕を用いるしかなかったのかもしれません。当時の酒は甘いものが多く、酒粕に砂糖ではなく塩を加え、甘味が増すように調整して飲んでいたそうです。これが現代になり、戦後、高度経済成長を迎える中、麹甘酒は姿を消した一方、大量消費の時代で日本酒も同様にたくさん作られたため、残渣として必ずでる酒粕を再利用しようという考えから、粕甘酒が定着したのかもしれません。

麹甘酒はなぜ甘い?甘さの秘密

甘さの秘密には「微生物」が関わっている

麹甘酒は、米と麹と水をもとに作られるのが一般的ですが、ではなぜあれほどの甘味が出るのでしょうか。麹は食べてみると若干甘味を感じますが甘酒の甘さには程遠く、原料のお米にも甘いイメージはありません。この甘味の正体は、目で見ることができない「微生物」による発酵の産物なのです。

酵素を生成する「麹菌」が生産するアミラーゼが甘さの正体!

発酵大国日本では、かなり古い時代から発酵食品が食べられてきました。中でも、日本の国菌となっている「麹菌(Aspergillus oryzae)」は、味噌や醤油、日本酒など様々な発酵食品で使用されてきました。この麹菌の働きは、「酵素」を生産することです。私達の消化管では沢山の種類の酵素が生産され、口から接種した食べ物を吸収しやすいように分解し、エネルギーとして代謝されています。これと同じ酵素を麹菌は大量に生産することが可能であり、特にでんぷんを分解するアミラーゼ、タンパク質を分解するプロテアーゼ、脂質を分解するリパーゼなどを生産します。この麹菌が生産するアミラーゼによって甘酒の甘味が生まれるのです。

甘酒の甘み数値は「紅はるか」以上?!

麹甘酒は、米と麹と水を合わせて50~60度の温度で1晩発酵させることで出来上がります。この発酵中に、米に含まれるでんぷんが麹菌が生産したアミラーゼによって、どんどん分解されて甘味となっていくのです。科学的に見てみると、でんぷんはブドウ糖とも称される最小糖「グルコース(以下ブドウ糖)」が鎖状に数百万~数千万という膨大な数が結合したものであり、この鎖状のでんぷんがアミラーゼによってブドウ糖に分解されていくのです。デンプン自体は甘味は全く感じませんが、ブドウ糖のようにでんぷんが低分子化することによって、甘味として受容されるようになります。発酵直後の甘酒には、なんと360g/L(1Lの甘酒の中に360gのブドウ糖があるということ)ものブドウ糖が含まれており、その甘味は舌が痺れて感じる程です(数値は弊社分析:HPLC)。焼き芋にすると溶けるくらいの蜜が出る甘味の強いさつま芋「紅はるか」ですら、糖度が約30度(300g/Lと同義)と出来立ての甘酒がどれほど甘いかが数値的にもわかりますね。

甘酒=「飲む点滴」の秘密

麹甘酒の広告やパッケージを見る際に、必ずと言っていいほど「飲む点滴」というフレーズを目にしないでしょうか。昔から、栄養満点な飲み物として幅広く親しまれてきた甘酒ですが、飲む点滴と呼ばれる明確な理由があるのです。

通常は「エネルギーを消費して」作られた酵素により分解吸収される

ウイルス等を除く全ての生物は、核を中心とする細胞を1~数兆個の有しており、生命活動を行うためにもこの1つ1つの細胞に栄養を届けなくてはなりません。一般的に、生物がエネルギーを獲得するには、口から食べ物を摂取し、消化管を通り、分解吸収されることで行われます。ご飯(お米)を例に上げると、口の中にあるアミラーゼ(酵素)により米に含まれるでんぷんの分解が始まり、胃酸や十二指腸内の様々な酵素や胆汁によりさらに分解が進み、小腸の表面で最終分解され、ブドウ糖となって吸収、血液にのって細胞にたどり着きます。細胞は低分子の「ブドウ糖」などからエネルギーを獲得するため、経口摂取した食物を「エネルギーを消費して」作られた様々な酵素により、分解吸収されているのです。

甘酒は最初から低分子の「ブドウ糖」が主成分。最短で細胞に届く。

一方で、甘酒の甘味の主成分は「ブドウ糖」であり、酵素生産などの無駄なエネルギーを消費せず、最短で細胞に届くことから「飲む点滴」と称されているのです。特にエネルギー消費の大きい脳細胞では、ブドウ糖が最も効率よくエネルギーを獲得できることから、勉強や仕事の合間に甘酒を飲むのが一番いいのかもしれません。また、栄養摂取とともに水分摂取も行えることから、運動中の水分補給にも最適な、まさに飲む点滴と言える飲み物が甘酒なのです。

KIKUシリーズ

飲む点滴として美容や健康に効果的だとしても、「甘酒は甘すぎて苦手」「独特の粒感が苦手」という方もいるのではないでしょうか。山口こうじ店の展開するKIKUシリーズでは、好みに合わせて甘みや粒感が選べるパーソナライズ甘酒を展開しています。

甘酒に挑戦してみたい、普段の生活に積極的に発酵食品を取り入れたいという方は、ぜひこちらのページもご覧ください。

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この記事を書いた人

山口 和真のアバター 山口 和真 有限会社山口こうじ店 専務

福島県白河市出身。
東京農業大学醸造科学科で基礎的な醸造学を学び、より深い知見を得るため同大学院に進学。発酵食品の研究を行う研究室で日々発酵試験を行いながら、キノコの特異性に惹かれ、研究テーマに。キノコを用いた環境浄化について論文を挙げた。その後、実家家業である有限会社山口こうじ店に入社し、大学院生活で得た微生物学的知識から新たな発酵食品の開発を行う 。地元TV放送局でのレギュラー出演や雑誌・新聞等にも多数出演。徹底した「本物の味」造りをモットーに、皆様に食で笑顔と健康を届ける麹屋を目指す。
受賞歴:ふくしま産業賞 奨励賞、白河関のみそ 全国味噌鑑評会 平成6~8年の3年連続理事長賞

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